Facebook

平成29年度「山岳環境保全学演習」を実施しました。

お知らせ演習林系の実習

将棊頭山へ(8月24日)
将棊頭山へ(8月24日)
大樽小屋にて(8月23日)往路の休憩地点の1つ
大樽小屋にて(8月23日)往路の休憩地点の1つ
天気図作図(8月24日)西駒山荘の食堂にて
天気図作図(8月24日)西駒山荘の食堂にて
聖職の碑にて(8月24日)
聖職の碑にて(8月24日)
温暖化試験地付近(8月24日)
温暖化試験地付近(8月24日)

<公開森林実習>

山岳環境保全学演習

<実習目的>

山岳環境保全に必要な基礎知識と技術を、西駒ステーションから木曽山脈・将棊頭山(1,250 m~2,730 m)をフィールドとして集中実習により習得する。

・代表的な高山植物の観察を行い、希少な高山植物群落の保全について学ぶ。

・高山帯から亜高山帯を経て山地帯までの、植物の垂直分布帯を踏査し、信州の自然の多様性について体感する。

・高山環境に生息する昆虫類や鳥類の観察、野生動物のフィールドサインの識別方法など、フィールドワークの基礎を学ぶ。

・コンパスを使用した地図の読みや、山岳気象への対処(天気図の作成を含む)など、登山の基礎知識を学ぶ。

・山小屋で宿泊し、登山者による環境負荷の観察(登山道の状態,し尿・ゴミ処理など)を体験して、自然保護と人の利用を含めた山岳環境の保全について見識を深める。

<実施日程>

平成29年8月22日(火)~8月25日(金) 3泊4日

<実施場所>

農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)西駒ステーション

木曽山脈(中央アルプス)西駒山荘、将棊頭山周辺

※前年度まで使用していたコースの変更:バス・ロープウェイ利用を利用して木曽駒ヶ岳山頂を経由し、稜線を縦走するコースは、体力的に楽である反面、一気に高山帯に到達することによる体への負担や、実習に不向きな稜線上の環境(岩場、強風、低温等の危険性)が懸念された。そこで今回、時間をかけて体を慣らしながら自力で登山するコース設定とした。

<担当教員・講師>

教員2名(荒瀬 輝夫 准教授,小林 元 准教授)

ティーチングアシスタント4名(信州大学農学部4年生)

<参加人数>

全26名

他大学8名:静岡大学1名、筑波大学1名、京都大学1名、京都教育大学1名、京都府立大学1名、石川県立大学1名、日本大学1名、東海大学1名。

信州大学18名:経済学部1名、理学部2名、工学部2名、農学部13名。
<実習スケジュール>

(1)当初の計画

1日目 822日(火) 農学部構内→桂小場宿舎

12:30 受付 食と緑の科学資料館「ゆりの木」

13:00~14:30 ガイダンス(食と緑の科学資料館「ゆりの木」)

         講師・スタッフ紹介

         授業の概要とねらい/授業スケジュールと成績評価の説明

         グループ分け/役割分担

         フィールドでのマナー/安全衛生管理/地域研究

14:30~15:30 演習1(西駒演習林、中央アルプス登山の歴史、山岳環境についての概説)

15:30 桂小場宿舎へ移動(学バス)

16:00 宿舎内の案内・寝所確認・荷物整理

16:30~17:00 フィールド調査・作業の準備(必要な装備・物品等の確認)

17:00~18:00 夕食準備

18:00 夕食、懇親会

19:30~20:30 演習2(鳥類・哺乳類の生態・調査法の概説)

2日目 823日(水) 木曽駒ヶ岳登山~西駒山荘

6:00 起床・朝食準備

6:30~ 7:30 演習3(山地帯上部での鳥類調査)

7:30 朝食

8:30 桂小場宿舎出発

      演習4(登山道の大雨・雪崩被害の観察)桂小場→ヒノキ小屋

     演習5(山地帯上部の動植物)ヒノキ小屋→シラベ小屋

12:30~13:00 昼食

13:00~15:00 演習6(亜高山帯の動植物観察)シラベ小屋→胸突八丁→分水嶺

15:00~16:30 演習7(高山ハイマツ帯の動植物)分水嶺→西駒山荘

17:00~18:00 西駒山荘の案内・宿泊準備、休憩・自由行動

18:00 夕食

      片付後、演習8(山小屋をめぐる諸問題1、本日のまとめ)

3日目 824日(木) 西駒山荘→桂小場

5:30 起床

6:00 朝食

7:30~ 9:30  演習9(天気図作製) (特別講師:西駒山荘管理人 宮下氏)

9:30~10:30  演習10(高山帯の資源植物)西駒山荘~将棊の頭を往復

10:30~11:00 休憩・片付け、出発準備

11:00~12:00 演習11(森林限界の観察)西駒山荘→2,672 m峰→温暖化試験地

12:00~12:30 昼食・休憩

12:30~14:30 演習12(植物の垂直分布1)島さんルート→シラベ小屋

14:30~16:30 演習13(植物の垂直分布2)シラベ小屋→ヒノキ小屋→桂小場

16:30~18:00 荷物整理・宿泊準備、休憩

18:00 夕食

      片付後 演習14(本日のまとめ)

4日目 825日(金) 桂小場→農学部構内

6:30 起床

7:00 朝食

8:30~10:30 演習15(総括と課題レポート)

10:30~11:00 休憩・片付け、出発準備

11:00~11:30 農学部構内へ移動(学バス)

11:30~12:00 食と緑の科学資料館「ゆりの木」にて実習の講評

         修了証書授与式、解散

(2)実習中のスケジュール変更

 実習前の8月18・19日には低気圧通過にともなう東日本の大雨、20日には沖縄南方に台風13号が発生するなど、不安定な気象条件が続いた。また、1日目(22日)は晴れたものの、翌23日にかけて日本海側からの低気圧の接近により、2日目の天候も不安定と予測された。そのため、増水した沢の渡渉を避けるため、往路のコース(登り始めで沢の渡渉が必要)から、遠回りになるものの安全な陸路のみの一般登山道「大樽コース」へと変更した。実際に,登山中に何度か濃霧や雨に見舞われた。

演習内容の変更点は以下のとおりである。

・2日目:

演習3(鳥類観察)を中止し、出発時刻を繰り上げ(往路の距離が長くなったため)。

西駒の鳥類相、鳥類調査法などについては別途資料を配布・説明した。

演習4(登山道の被害観察)は復路へと変更(往路で当該場所を経由しなくなったため)。

・3日目:

演習10を「将棊頭山山頂~聖職の碑の見学」と「山小屋周辺のゴミ拾い活動」に変更(濃霧が晴れて天候が回復したため)

資源植物については、コケモモ・ガンコウランなどを下山時に随時説明した。

<成果と今後の課題・展望>

(1)実習の成果

 実習の課題レポートとして「天気図の作成と概説」「山岳環境の保全」について提示したところ、学外からの履修者については全員がレポートを提出し、全員合格と評価された。学内(信州大学農学部)の履修者については、13名中12名がレポートを提出し合格と評価されたものの、期日までに提出しなかった1名(理由不明)については残念ながら不可とした。

当初、山麓の桂小場宿舎から西駒山荘まで自力で登ることによる体力消耗が懸念されたが、30分~1時間おきに休憩を入れる配慮や、雨天時には進行を止めて早めに雨具を装備するよう呼びかけるなどの配慮により、演習予定時間を短縮して休憩時間を延長するといった措置を講じずに済んだ。

 課題レポートから、履修者のおもな感想・意見をまとめると以下のとおりである。

【高評価だった点】

①演習の内容:

・標高による植生や樹木の移り変わりを実際に見ることが出来て良かった。

・登山の技術(地図の見方、天気図作成、歩き方、休憩や栄養補給のしかたなど)を学ぶことができた。

・山小屋の問題(ゴミ、排水など)を強く感じることができた。

・登山道が降雨後の水の流れや環境に影響することを学べた。

・普段考えないような動植物や山の問題について考えるよい機会であった。

・生物系でない学生にも説明が分かりやすかった。

②人的交流:

・山岳環境について、自分と同じような興味をもって研究している教員や学生の話を聞けたことは貴重な体験だった。

・TAの方々がフレンドリーで楽しく過ごすことができ、疑問点も聞きやすい雰囲気だった。

・他大学の人との交流は興味深く、多くのことを学べた。

・今回の経験を登山仲間にも伝えたい。

【改善すべき点】

①演習の内容:

・1列で長くなると、説明が聞き取りにくく、伝言も伝わりにくい(登山前に一通り解説したほうがよい)。

・人数が多く、野生動物を観察できなかったのは残念。

・せっかく班分け(※おもに食事当番)されていたので、グループディスカッションや班ごとの発表などもあると良かった。

②登山のしかた:

・班ごとでなく全体1列での登山は、ペースや順番などで支障が出て安全上問題では?列が長くなると、前方と後方とで休憩時間のタイムラグが生じる。

・登りでは休憩の頻度が多すぎて体が冷えた。降りこそ危険なので時間をかけるべきで、水分補給の時間がもっと欲しかった。

・行動食がレーション(お菓子類)だったのは物足りなかった。のどが渇き、もう少しおなかに溜まるものが欲しかった。

・事前準備の資料で、「登山用リュックサック」だけでなく、〇ℓ以上を推奨、のように示してほしい。

・登山ルートや難易度について、より詳しく説明してもらえると良かった。

③設備等:

・桂小場宿舎のシャワーの温水が出なかったことや、トイレが詰まったことには驚いた。

(2)課題・展望

①学外からの履修者の動向

 昨年度の実績(8大学12名)に比べ、今年度8大学8名(各1名ずつ)と、受入れ人数では減少した。教育共同拠点の認定が増えたことで申し込み先が増えたことが一因と推測される。しかし、受入れ大学数は昨年並みを維持していることは好材料である。1校から1名のみでなく複数の申し込みがあるような働きかけが必要である。

 人的交流について評価する意見が多かったことから、可能なかぎり履修者を受け入れるようにしたいところであるが、人数が多くなると登山道で長い列になってしまうことは避けられない。説明を聞き取りにくくなることについては、2回に分けて説明するといった配慮を行ったものの、まだまだ改善の余地があるといえる。班編成を生かす登山や、資料準備・スタッフの事前教育などの方法を検討したい。

②演習の方法

 今回、演習内容やその方法については、概ね高評価であったと考えられる。天候や不測の事態で、どうしてもコース変更や、それに伴う内容の変更はありえる。演習を毎年積み重ねてきて、コース変更パターンや演習の代替内容はかなり揃ってきたので、次年度以降、できるかぎり事前に履修者に情報を提示するように心がけたい。

③行動・生活面

登山のしかたや懇親会については、学内(信州大学農学部)の履修者にとっては比較的に日常的な体験のためか、全体的に好評だったようである。一方、学外(とくに農学系でない学部)の履修者には、普段の実習演習ではまずない体験であったためか、戸惑いの意見もいくつか寄せられた。

授業運営側としては安全管理や懇親の意図で配慮したつもりであったが、より丁寧な説明や,疑問や意見があれば遠慮なくその場で申し出てもらえるような雰囲気づくりに努めたい。

④施設面

 今回、とくにシャワー給湯器の故障により温水が出なくなったことは予想外の出来事で、急きょ,夕刻に学バス運行を依頼して温泉施設を利用することになった。山に不慣れな学外履修者(女子学生も多い)を受け入れる側の責任として、必要な施設については改善が必要である。

※桂小場宿舎シャワー室は、現在、改修の方向で学内での話が進められています。

<アンケート>

H29「山岳環境保全学演習」受講者アンケート(PDF:375KB)

山小屋周辺のゴミ拾い活動(8月24日).jpg

山小屋周辺のゴミ拾い活動(8月24日)

« 前の記事へ

お知らせ一覧にもどる

次の記事へ »