実施例

筑波大学菅平高原実験センター大明神宿舎の建物調査(平成21年12月実施)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 菅平高原は、長野県上田市から須坂市にまたがる、標高1300m~1500mの高原地帯である。冷涼な気候であるため、夏は、ラグビーをはじめ、 サッカー、テニス、陸上競技など、冬は、スキーなど、多種多様なスポーツの合宿が行われている。また、冷涼な気候をいかし、多くの企業や学校の研究や研修 が行われている。

 平成21年12月、菅平高原に位置する筑波大学菅平高原実験センター大明神宿舎の建物について、実測調査とヒアリング調査を行った。実測調査で は、建物の部材を一つ一つ測って図面(平面図・立面図・断面図)を制作し、また、ヒアリング調査では、教職員の方々に建物の建設年や改築年などに関するお 話をうかがった。これらの調査をふまえ、大明神宿舎の建築的価値を把握した。

 大明神宿舎の建物は、木造平屋建て、トタン葺き(瓦棒葺き)屋根、外壁は下見板張り、片廊下式の間取りであり、廊下の南側に宿泊室(4室)が、廊 下の突き当たりに食堂と厨房と風呂が配置されている。宿泊室は、二間続きになっていて大小の部屋として使い分けることができること、また、出窓の下部に収 納スペースが設けられていることなど、宿舎として合理的につくられている。一方、その建築的な特徴は、なんといっても、学びの場である演習林、さらには、 菅平高原の象徴である根子岳と四阿山を背負った、その立ち姿にある。とりわけ、出窓で構成された南面の立ち姿は、軽快で透明感があり、背後の風景と一体と なって秀逸な景観を形づくっている。

 大明神宿舎が建設されたのは、昭和34年(1959)頃であるという。これによれば、大明神宿舎は、建設されて以来、50年以上もの間、筑波大学 菅平高原実験センターの宿舎として多くの学びを支えてきたことになる。菅平高原が、合宿や研究や研修の中心地として大きく発展したその背景には、筑波大学 菅平高原実験センターにおける大明神宿舎のような、合宿や研究や研修を行う人々が一時的に暮らすことのできる宿舎の存在が大きいだろう。その意味で、大明 神宿舎は、筑波大学菅平高原実験センターの歴史はもとより、菅平高原の歴史を伝える重要な建物であるといえる。

 現在、大明神宿舎は、老朽化等の理由から宿舎として利用されていない。今後、文化財としての保存(国登録有形文化財への申請など)や積極的な利活用が望まれる。