お知らせ

酸化グラフェン/グラフェン ハイブリッド積層構造水処理膜の簡便な生成法開発と高性能化に成功(JSTと共同発表)

 信州大学アクア・イノベーション拠点(COI拠点)は2017年8月29日、酸化グラフェン/グラフェン ハイブリッド積層膜によるカーボンのみで構成される新規な無機材料系の水分離膜を開発し、高度な塩化ナトリウムおよび色素の除去特性を見いだしました。この水分離膜はナノカーボン材料特有の高い強靭性(耐薬品性や耐熱性等)を有しています。
 当開発膜は、独自法で調整した混合水をスプレーし自己組織化させることで形成できます。
 本プロセスは、大面積膜を低コストで簡便に製膜できる等実用化に向けた大きなアドバンテージを有します。
 本研究成果が、Nature Nanotechnology (Impact Factor:38.9)に掲載されたことを受けて、記者会見を行いました。

 本拠点では、文部科学省と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が推進するCOISTREAM(革新的イノベーション創出プログラム)の下、世界的な課題となっている安心・安全な水の確保に貢献するため、革新的な造水・水循環システムの構築を目指しております。今回の研究成果もその一環で得られたもので、COIプログラムを推進する国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)との共同発表になります。

 信州大学COI拠点の研究グループは、ナノカーボンの注目形態の一つであるグラフェンと酸化グラフェンを複合して積層ナノ構造を巧みに調製することで、高度な水処理機能を持つナノカーボン膜の開発に成功しました。具体的には、最適に配合した酸化グラフェンとグラフェンの混合液を多孔性高分子基材上にスプレーすることで厚さ数10ナノメートルの薄い活性膜を形成し、これによって食塩水中の塩分や水中の色素を高い選択性で除去できます。開発した製法では、目的に合わせて膜の機能を制御することが可能で、水処理における広範な要請に対応可能です。現時点では性能的に現行の逆浸透(RO)膜に及ばないものの、今回の膜はグラフェンのみで構成されていて科学的に大きな意義があり、またRO膜の新しい可能性を示すものです。一方、酸化グラフェンを用いた水処理膜については、最近、英国マンチェスターの研究グループからも論文が発表され(Jijo Abraham et al.,Tunable sieving of ions using graphene oxide membranes,Nature Nanotechnology 12,546-550(2017))、メディア等で広く取り上げられるなど国際的に大きな関心を呼びましたが、このマンチェスター研究グループによる膜では脆くて圧力に対して非常に弱いため、実用的な透水法であるクロスフローを用いることができない等の課題が認識されています。今回開発した膜は実海水処理を想定したクロスフローによる5MPaの高圧力下で安定した透水が確認され、透水量はAbraham氏らの膜の約30倍の高性能を保持しています。また、当開発膜は様々な実用的な特長(耐塩素性、せん断抵抗、長期運転、スケールアップ性)を有し、優れた膜機能を付与できました。さらに簡便なスプレー法による製膜工程によるため、大面積化も容易であり、性能的にも生成法においても既発表論文を著しく進化させた膜技術の開発に至ったと言えます(特許出願中)。
 このナノカーボン分離膜は、海水淡水化処理の他、随伴水処理や各種産業分野における処理膜等として広範な応用展開が期待されます。当拠点では更なる基礎科学と応用技術の両分野の研究・開発と社会への実装の推進を図ってまいります。
 記者会見は29日午前10時30分から、信州大学長野(工学)キャンパス内の総合研究棟1階101番教室で開かれ、遠藤守信(COI拠点研究リーダー、信州大学特別特任教授)、竹内健司(COI拠点サブ研究リーダー、信州大学准教授)、Aaron Morelos-Gomez(信州大学COI拠点研究員)、林 卓哉(COI拠点サブ研究リーダー、信州大学教授)、荒木拓海(信州大学特任准教授、高度情報科学技術研究機構)、RODOLFO CRUZ SILVA(信州大学カーボン科学研究所特任教授)の6人がテレビ・新聞などの報道機関に説明を行いました。

プレスリリースおよび論文は以下のリンクから入手してください。
プレスリリース
信州大学COIプレスリリース20170829.pdf

論文
http://www.nature.com/nnano/research/index.html

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    スカイプで記者会見に臨む遠藤守信特別特任教授


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    酸化グラフェン膜の色素分離


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    記者会見に臨む研究員